「有給を取りたい。でも、理由をなんて言えばいいんだろう」。

そう思って、申請ボタンの前で手が止まったこと、ありませんか。

正直に書ける理由ならいいけれど、「ただ休みたいだけ」「気が乗らない」「ちょっと面接が…」みたいなときは、本当のことを書きにくい。かといって嘘をつくのも気が引ける。そして、いちばん奥にある不安は、たぶんこれですよね。

> 「もっともらしい理由を言わないと、断られてしまうんじゃないか」

私はこれまで、人事に近い立場で、社員のみなさんの勤怠や休暇の相談を受けることもありました。その経験から、最初にいちばん大事なことをお伝えします。有給休暇は、理由を問わず取れる休みです。そして会社は、「理由」を口実に取得そのものを断ることは、基本的にできません。

この記事では、「有給に理由は必要なのか」「正直に言いたくないときはどうするか」、そして「もし断られたら何が起きているのか」を、煽らずに整理します。読み終わるころには、「なんだ、こんなに身構えなくてよかったんだ」と、少し肩の力が抜けるはずです。

この記事でわかること

  • 有給休暇に「理由」を言う義務はあるのか(法律のうえでの答え)
  • それでも会社や上司が理由を聞いてくるのは、なぜか(人事側の本音)
  • 理由は実際どう答えればいいか(嘘をつかずにすむ言い方)
  • 「断られた」とき、会社の中で何が起きているのか(時季変更権の正体)
  • それでも理由なく断られたら、どこに相談すればいいか
  • よくある質問(FAQ)

まず結論:理由はいらない。でも「日にちの相談」はあり得る

細かい話に入る前に、いちばん大事なところを先にまとめます。

  1. 有給を取るのに、理由を会社へ告げる義務はありません。 「私用のため」で十分で、それ以上くわしく説明しなくても、休みは取れます。
  2. 会社は、「理由が気に入らない」という理由で、有給そのものを断ることはできません。 これは法律(労働基準法)で決まっている、働く人の権利です。
  3. ただし、会社には「日にちをずらしてもらえませんか」とお願いする権利(時季変更権)はあります。 これは「拒否」ではなく、あくまで“別の日への変更のお願い”で、しかも認められる場面はかなり限られています。
  4. だから、角を立てたくないなら「私用で」と伝えるだけで十分。 わざわざ作り話をする必要はありません。

ひとことで言えば——理由は言わなくていいし、嘘もいらない。これが結論です。順番に見ていきます。

そもそも、有給に「理由」は必要なのか

ここが、いちばん気になるところですよね。結論から言うと、理由を告げる義務はありません

有給休暇(正式には「年次有給休暇」)は、労働基準法という法律で働く人に認められた権利です。一定期間働いた人には自動的に与えられるもので、「何のために使うか」は、法律が問わないことになっています。旅行でも、家でゴロゴロするためでも、通院でも、面接でも、扱いは同じです。

実際、過去に最高裁判所も「有給休暇をどう使うかは、会社の干渉を許さない、働く人の自由である」という趣旨の判断をしています。つまり、休みの中身は、本来あなたが説明しなくていい領域なんです。

申請書に「理由」を書く欄があると、つい「ちゃんとした理由を書かなきゃ」と思ってしまいますが、そこは「私用」で構いません。会社のルール上どうしても何か書く必要があるとしても、詳しい中身まで明かす義務はない、と覚えておいてください。

でも実際、理由を聞かれる。あれは何なのか

「義務がないのは分かった。でも、現実には上司に『何かあるの?』って聞かれるんだけど……」。

そうなんです。ここが、制度の建前と現場のあいだにある“もやもや”だと思います。人事に近い立場で休暇の相談を受けてきた経験から、正直にお話しすると、上司が理由を聞いてくる背景には、性格の違う2つの事情が混ざっています

ひとつは、「なんとなく」や「思い込み」

身もふたもない話ですが、深い意味なく聞いている上司は、実際にいます。少しプライベートが気になって、とか、口ぐせのように「何かあるの?」と聞いてしまう、とか。なかには、「有給は理由を言って取るものだ」と思い込んでいる人も、まだ少なくありません。

ただ、ここははっきりさせておきたいのですが、そう聞かれたからといって、答える義務が生まれるわけではありません。相手が誤解しているだけ、ということも多いのです。「私用で」と返して大丈夫です。

もうひとつは、「仕事が回るか」の確認

一方で、上司が気にするもっともな事情もあります。それが業務の段取りです。

特に、連続して休む場合や、忙しいと分かっている日に申請があった場合、上司としては「休むのはまったく構わない。ただ、仕事がちゃんと回るように、メンバー間で調整は済んでいるかな?」と確認したくなります。正直に言えば、私自身も、似たような確認をしていました。これは理由の詮索というより、チーム全体を見ている立場としての心配なんですね。

だから、対処はシンプルです。理由は「私用で」とぼかしたまま、業務の段取りだけ先に添える。たとえば「この日は私用でお休みします。◯◯の件は前日までに引き継いでおきます」。こう言われると、「仕事は回るか」を心配している上司は安心しますし、なんとなく聞いてくる上司も、それ以上は突っ込みにくくなります。

ちなみに、“理由を聞かない”上司もいる

なお、「有給の理由を聞くのはよくない」ときちんと理解している上司は、そもそも理由を尋ねません。代わりに、もし都合の悪い日なら「その日は大事な会議があるので、別の日に変えてもらえませんか?」と、会社側の事情のほうを先に伝えてきます。これは、次に出てくる「時季変更権」の、本来あるべき使い方です。

——とはいえ、残念ながら、そういう上司ばかりではないのが現実でもあります。だからこそ、「理由は言わなくていい」という“軸”を、あなた自身が持っておくことが、いちばんの守りになります。

では、理由はどう答えればいい?(嘘はいらない)

ここが、この記事でいちばん「真似してほしい」ところです。理由の伝え方には、ちょっとしたコツがあります。

基本は「私用のため」でいい

くり返しになりますが、「私用のため」「所用のため」で十分です。これは立派な理由です。「プライベートな用事がある」という意味で、それ以上の説明は要りません。

言いたくないことは、言わなくていい

通院、家族のこと、面接、メンタルの休養——人に言いにくい理由のときほど、「正直に言わなきゃ」と思い詰めがちです。でも、有給は中身を明かさずに取れるのが原則。言いたくないことは、無理に言わなくて大丈夫です。

嘘をつく必要はない(むしろリスク)

「もっともらしい嘘の理由を用意しなきゃ」と思う人もいますが、私はおすすめしません。嘘は、あとでつじつまが合わなくなったときのほうが気まずいからです。本当の理由を言いたくないなら、嘘ではなく「私用で」とぼかせばいい。これがいちばん安全で、後ろめたさも残りません。

面接や転職活動のための有給も、同じ

たとえば、在職中の転職活動で面接に行くために半休や1日休む——これも、まったく問題ありません。理由を細かく説明する義務はなく、「私用で」で通せます。「ふだんと違う様子」で勘ぐられないか不安な人もいると思いますが、そのあたりの考え方は別の記事にまとめています。

👉 あわせて読みたい:在職中の転職活動はバレる?人事側から見た現実と気をつけること

円満に取る“工夫”は、義務とは別物

ここはひとつ、誤解されたくないところです。「早めに申請する」「繁忙期を避ける」「引き継ぎメモを残す」——こうした気づかいは、人間関係を円滑にするための“工夫”であって、有給を取るための“条件”ではありません。やればお互い気持ちよく休めますが、やらなかったら有給を取れない、という性質のものではない。ここを混同しないでおくと、必要以上に気をつかわずにすみます。

「断られた」とき、会社の中では何が起きているのか

いちばん不安なのが、ここですよね。「申請したのに断られたら?」。

その前に、ひとつ心強い前提をお伝えします。いまの法律は、会社に「有給を取らせなさい」という方向で動いています。有給が年に10日以上ある人については、会社は1年に5日、必ず取らせる義務があるほどで、取らせなければ会社の側が罰せられます。つまり有給は、会社が気軽に断れるものではなく、むしろ取らせるのが会社の務め——これが、いまのルールの大前提です。

そのうえで、「断られたら?」を正しく理解するには、「断る」を2種類に分けて考えるのがコツです。

①「理由がダメだから却下」——これはできない

「そんな理由じゃダメだ」「もっとちゃんとした用事じゃないと認めない」。もしこういう断られ方をされたら、それは本来できないことです。さきほどの通り、会社は理由の良し悪しで有給を却下する権限を持っていません。

②「その日はずらしてほしい」——これは“あり得る”(時季変更権)

一方で、会社には「申し訳ないが、その日は別の日にしてもらえないか」とお願いする権利があります。これを少しかたい言葉で「時季変更権(じきへんこうけん)」と呼びます。

ポイントは、これは「却下」ではなく「日にちの変更のお願い」だということ。「有給は取っていい。でも“その特定の日”は事業が回らなくなるので、別の日でお願いできないか」という調整です。あなたの有給そのものが消えるわけではありません。

そして大事なのは、この変更のお願いが認められる場面は、思っているよりずっと限られていること。法律では「事業の正常な運営を妨げる場合」とされていますが、これは「ちょっと忙しい」「人が足りない」くらいでは足りない、とされています。同じ日にたくさんの人が重なって、代わりの人をどうしても用意できない——といった、かなり例外的な状況が想定されています。会社の側にも「代わりの人を手配する努力」が求められる、というのが基本的な考え方です。

> ポイント:「忙しいから今月は誰も有給を取るな」のような“まるごと禁止”は、時季変更権とは呼べません。時季変更権は、あくまで「この日を、別のこの日へ」という具体的なずらしのお願いです。

それでも、理由なく断られたら

「理由を言わないと認めない」「とにかくダメ」——もし、変更のお願い(時季変更権)の範囲を超えて、頭ごなしに断られたら。落ち着いて、次の順番で進めるのがおすすめです。

  1. まず、冷静に意思を伝える。 「有給は理由を問わず取れると理解しています。この日は私用で取得したいのですが、難しいでしょうか」と、感情的にならずに確認します。日にちの調整の相談なら応じる、という姿勢で話すと、こじれにくいです。
  2. 上司でダメなら、人事・総務に相談する。 現場の上司が制度を正しく理解していないだけ、というケースは実際にあります。人事に話が上がると、すっと通ることも少なくありません。
  3. 社内で解決しないときは、外部の窓口へ。 各都道府県の労働局にある「総合労働相談コーナー」は、無料で相談に乗ってくれる公的な窓口です。明らかに違法な拒否であれば、労働基準監督署が会社を指導することもあります。

いきなり大ごとにする必要はありません。多くは①②の段階で落ち着きます。ただ、「困ったら相談できる公的な場所がある」と知っておくだけで、気持ちはずいぶん楽になります。

なお、「断られたこと自体が違法かどうか」は、状況によって判断が分かれます。確実なところは、自社の就業規則を確認したうえで、必要に応じて専門家(社会保険労務士・弁護士)や上の窓口に相談すると安心です。

まとめ:理由は言わなくていい。嘘もいらない

最後に、もう一度整理します。

  • 有給に理由を告げる義務はない。 「私用で」で十分。中身を明かす必要はありません。
  • 会社は「理由」を口実に有給そのものを断ることはできない。 これは法律で守られた権利です。
  • 会社にできるのは「日にちをずらすお願い(時季変更権)」だけ。 しかも認められる場面はかなり限られています。「却下」とは別物です。
  • 上司が理由を聞いてきても、答える義務はない。 聞く背景は「なんとなく・思い込み」と「仕事が回るかの心配」が混ざっているだけ。「私用で休みます。引き継ぎはしておきます」と段取りを添えれば、たいていスッと進みます。
  • 理由なく断られたら、上司→人事→総合労働相談コーナー/労基署の順で相談を。

有給は、あなたが安心して休むための権利です。理由づくりに悩んだり、嘘の言い訳を考えたりして消耗する必要はありません。「私用で」と、堂々と申請してください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 有給を取るとき、理由は必ず言わないといけませんか?

A. いいえ。有給休暇は理由を問わず取得できる権利で、理由を会社に告げる義務はありません。「私用のため」で十分です。申請書に理由欄があっても、くわしい中身まで書く必要はありません。

Q2. 言いたくない理由のときは、嘘をついてもいいですか?

A. 嘘をつく必要はありません。本当の理由を言いたくないときは、嘘ではなく「私用で」とぼかせば大丈夫です。作り話は、あとでつじつまが合わなくなったときに、かえって気まずくなることがあります。

Q3. 「その理由じゃダメ」と有給を断られました。これは正しいのですか?

A. 会社が「理由の良し悪し」で有給そのものを却下することは、基本的にできません。会社にできるのは「その日を別の日にしてもらえないか」という日程変更のお願い(時季変更権)だけで、それも認められる場面は限られています。理由を口実にした却下に納得できないときは、人事や、各労働局の「総合労働相談コーナー」に相談してみてください。

Q4. 上司が毎回くわしい理由を聞いてきます。答えないとダメですか?

A. 答える義務はありません。上司が理由を聞く背景はさまざまで、深い意味なく聞いている場合や「理由は言うものだ」と思い込んでいる場合もあれば、連続休暇や繁忙日で「仕事が回るか」を心配している場合もあります。いずれにせよ中身を答える義務はないので、「私用でお休みします。◯◯の件は前日までに引き継いでおきます」と、仕事の段取りだけ添えて伝えると、スムーズに進みやすいです。

Q5. 繁忙期や人手不足を理由に「今は取るな」と言われました。

A. 「忙しいから今月は誰も有給を取るな」といった“まるごと禁止”は、時季変更権の正しい使い方ではありません。時季変更権は「この特定の日を、別の日にずらしてほしい」という個別の調整で、しかも代わりの人を用意できないような限られた場面でのみ認められます。納得できないときは、人事や総合労働相談コーナーへの相談を検討してください。

参考にした公式情報

※この記事は、人事に近い立場で休暇や勤怠の相談にも関わってきた一会社員としての経験と、公的機関の一般的な情報をもとに整理したものです。有給休暇の細かい運用や就業規則の内容は会社によって異なり、個別の事情で結論が変わることもあります。判断に迷うときは、自社の就業規則を確認するか、必要に応じて各労働局の総合労働相談コーナー、または専門家(社会保険労務士・弁護士など)にご相談ください。最新の法令・制度は公式情報をご確認ください。


学びはマネから。